伊藤美月君のために |
爽涼の秋。朗報がまた入った。六度目の通産大臣賞受賞の報らせである。
すでに多くの賞をとっているが六度目と言うのは恐らく万古には珍しいことゝ思う。
万古焼は朱泥・紫泥のまろやかな「吸子」で広く知られている。
傳統の技術をふんまえて精緻を極め新しい技術を加えつゝあの柔らかい円型の
肌に祈りを込めて常に新しい境地を拓いていく。。
心をなごませてくれる一時の「茶」は周囲に潔い人々の「和」を感じさせてくれる。。
大臣賞受賞の栄誉もこの世界をつくってくれた褒賞とうなづかれる。
作品はその人柄をよく現している。円満な人柄に常に変わらぬ前向きの姿勢は
これからも一層の進展が期待出来る。
|
1986年 9月
芸術院会員 元日展理事 辻 光典 |
伊藤美月讃 |
佳い茶器は眺めて美しく、 触れて快い。 したがって、それを使えば人の心は温かく、
ほのぼのした思いになる。 伊藤美月氏の急須を手にすると、その感を深くする。
古来より萬古焼は紫泥の色美しく、形は静かでつつましい。
「急須は見せるためのもの ではありません。使ってその美を感じていただくものなのです」
とおっしゃる伊藤美月氏は 自分を職人だと言い、作家と呼ばれることを好まない。
私はその生き方に心を引かれるのである。
萬古焼の伝統を追い求める伊藤美月氏の作品は当然のことながら、
豪華さもなく、華美もなく、静かで、さびさびとしている。
生き方がおのずから作品に現れるのである。
|
|
随筆家(元鎌倉市長) 小島寅雄 |